東京下町、千貫神輿が練り歩く鳥越神社のすぐそば。この地に根を下ろし、鳥越祭りを大切にしてきた施主様のご依頼で、この建築は生まれました。かつて、大正時代からこの場所を見守ってきた木造工場兼住居の記憶を未来へ繋ぐことが、私たちの使命でした。施主様が抱く「ご先祖への感謝」と「子孫へ受け継ぐ誇り」という二つの思いに応えるため、私たちは単なる住居ではない、この街の財産となる建物を目指しました。その象徴が、人々を迎え入れるエントランスです。大庇の下に設けた広場のような空間は、街ゆく人々の交流を生み、1階に誘致した店舗が新たな賑わいをもたらします。デザインにおいては、街並みに溶け込む、さりげない和の雰囲気を大切にしました。塗り壁の温もりや、千本格子をモチーフにした手摺の繊細さが、建物の品格を高めます。また、解体した工場の木材や、代々大切にされてきた家具を再利用・展示することで、建物の歴史を物語る継承の物語を紡ぎました。最上階にあるオーナー住戸は、南北に光が通る伸びやかな空間と、空へと開かれた屋上庭園が、心豊かな暮らしを育みます。自然素材で仕上げられた内装は、時の流れとともに味わいを増していきます。